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新型コロナ~歴史に学び未来へ~

西脇隆俊(京都府知事)×松井道宣さん(京都府医師会 会長)×磯田道史さん(国際日本文化研究センター 准教授)鼎談企画

近世以降、幾度となく感染症と闘ってきた日本の歴史。貴重な教訓から、今、私たちが学ぶべきことは何か。
未曾有のコロナ不況に立ち向かい、京都から発信する新たなモデルとは?

京都の感染状況と対策~府の取組みが全国制度へ~

鼎談:知事様子

西脇:新型コロナウイルスの感染が京都で初めて確認されてから約8カ月。一時期に比べると感染状況は落ち着いてきたと思いますが、一方、高齢者施設や医療機関などでクラスターも発生しており、引き続き警戒を緩めてはいけないと思っています。

松井:いわゆる第2波と言われる状況ですが、第1波に比べると、重症化する方が少ないのが特徴です。若い人たちの間で感染が広がっているものの、重症化しやすい高齢者への感染拡大が防げていることが理由として考えられます。これはひとえに「新しい生活様式」が府民の皆さんの間に浸透しているおかげでしょうね。そして京都府では、検査体制の整備と、クラスターをしっかり捕まえて感染拡大を防ぐこと、軽症者や無症状の方の宿泊療養体制、さらに重症者を治療する医療体制、これらが明確に役割分担し、充実した対応ができていると思っています。

西脇:4月に緊急事態宣言が発出された際、2万7000もの事業所に休業要請を行い、大型連休を前に都道府県をまたぐ移動の自粛を要請しました。爆発的な感染拡大を防げたのは、府民の皆さんがこの自粛要請にご協力くださったおかげでもあります。

松井:感染症対策の目的は、医療を逼迫(ひっぱく)させないこと。新型コロナ対応以外の通常の医療が、感染拡大によって圧迫されないよう、感染者を増やさない対策をとる必要がありました。このウイルスは、誰が感染しているか分からず、まだ誰も免疫を持っていない。感染者と接触すると、どんどん感染が広がっていく。だから人と人との接触を減らすことは、感染の拡大防止に非常に効果があったと言えます。京都の場合は、この対策が比較的うまくいって、感染の波を乗り切れたかなと感じています。

磯田:欧米の場合は、いきなり法律でドカーンと「規制」するわけです。マスクしないと逮捕されるぞ、といったふうに。日本の場合はあくまで「要請」に応えて「自粛」を行うという形ですよね。しかもその権限が極めて曖昧で、知事が京都への緊急事態宣言の発出を要請された際には、かなり悩まれたと思うんですよ。だけど、国から宣言を出してもらわないと、知事の権限では法的に行えないという仕組みがあるので、苦渋の決断で要請して、いろんな対策を打つための権限を得るしかなかったと思いますね。

西脇:あのときは、日々ただならぬ緊迫感の中にありましたね。ただ、何よりも府民の皆さまの生命と健康を守ることを最優先に考えました。

磯田:知事は自粛・休業要請だけでなく、さまざまな対策を講じられたと思うのですが、京都での特徴的な感染対策にはどんなものがありますか?

西脇:まず3月下旬、府庁に入院医療コントロールセンターを置いて患者情報を一元化したのが大きかったです。

磯田:そこでいわば交通整理ができたわけですね。

西脇:そうです。あと、症状が出た方が最初に連絡される帰国者・接触者相談センターへの電話がつながりにくい状況があったので、京都府医師会で検査センターを独自に設置いただき、かかりつけ医から直接の紹介でPCR検査を受けられる体制を整えました。また、かかりつけ医による唾液検査も400カ所以上に拡大しています。もう一つ、妊婦さんに対するPCR検査を公的な負担で行うことを京都がいち早く決めて、それが今では全国的な制度となりました。

磯田:妊婦さんのPCR検査を公費で、という施策を京都モデルとして実現して、それが全国に広がったということですね。特に若い世代の方への対策を講じるのは素晴らしいですね。

松井:そういう国とは違う流れを、いち早く実質的な形で作る上で、知事の迅速な決断と医師会の先生方の理解が大きかったと思っています。

西脇:そうして感染拡大を抑える一方で、観光関連産業をはじめ社会経済活動には甚大な影響が出ています。そこで京都では、実質無利子・無担保・無保証料の民間金融機関による融資制度を創設しました。民間金融機関に利子補給を入れるなどの工夫をして「とりあえずしのいでください」との思いです。また、休業要請に対する支援給付金についても、京都ではとにかく迅速化を重視しました。減収したことを要件とせず、まずは事業の継続と雇用の維持を最優先に考えて対策をとってきました。

感染症との闘いに見る歴史の教訓

鼎談:松井会長の様子

西脇:磯田先生は先日『感染症の日本史』という本を出版されましたね。

磯田:そうなんです。例えば100年前、京都にスペイン風邪が蔓(まん)延するさなか、第一次世界大戦の終わりを祝う提灯(ちょうちん)行列で四条通が人でいっぱいになったり…そんな状況があったことを女学生の日記から見たりしています。当時はソーシャルディスタンスなんて概念がありませんでしたから。

西脇:人類史上、天然痘やペストなどに襲われるたび、最前線の医療現場の方が、当時としては最新の知識を総動員し試行錯誤しながら対応されてきたはずで、頭が下がる思いです。

磯田:幕末から明治にかけて、1回コレラが蔓延すると10万人ぐらいが亡くなりました。そんな中で、例えば緒方洪庵(※1)などの医師たちは往診に行くんです。コレラには対症療法しかなく、脱水症状のある人に生理食塩水を飲ませるぐらいしかないんですけど、当時はそれに気付いていないから、マラリアの薬で闘おうとして多くの医師が亡くなってしまった。今回の新型コロナでも、最初に患者さんを診る医師たちのストレスと労力を思いますと、本当に頭が下がりますね。

松井:医学の歴史は感染症との闘いの歴史であり、その結果として医学の進歩があります。抗菌剤や抗生物質などもそうですね。また、例えば下水道などを整備して公衆衛生を充実させることも、コレラなどの感染症を克服する上で非常に大きかったといえます。

磯田:明治期の医師であり政治家でもあった後藤新平(※2)が、公衆衛生を前に進めたんですよね。そうして政治と医学が幸せな関係を取り結んでいれば、相当に威力を発揮する。それを物語る歴史の教訓ですね。

秋冬の流行期に備えて~避難所の独自支援策と医療・検査体制の充実~

鼎談:磯田さんの様子

磯田:9月に日本へ接近した大型台風は西の方へそれていきましたが、新型コロナと災害のダブルパンチで、感染対策をしながら避難所を構築するといったこともあり得る事態かと思います。知事、そのあたりの対策はどのようにされているのでしょう?

西脇:まず避難所については、京都府の地域防災計画などをすべて見直しました。そして避難所の3密を回避するために、例えば避難所の数を増やす、場合によってはホテルなど民間施設の借り上げをする。あと避難所の中のパーティションなどを整備し、体調が悪い人や発熱のある人を隔離するために部屋を確保するなどの対策をとれるよう京都府独自に市町村への助成を行い、すでに22市町村がこの制度を活用しています。もう少し大きな視点で見ると、万一、感染拡大局面で大きな災害が起こった場合に、マンパワーの確保や財政力、経済への影響などに対してパニックにならず対応できるよう、行政としては常に心に留めておかなくてはならないと思っています。

磯田:もし、次の感染のすごい波がこの秋冬に起きて、そこで大きな災害が起こったら…ということを想定して、自分が感染しない・感染させないためにどうすればいいかを考える。それを行政のみならず、僕たち府民もしていかなくちゃいけませんね。

松井:医師会としては、新型コロナの再拡大について、今年の秋冬はちょっと緊張して臨まなくてはいけないと考えています。冬には新型コロナに限らず、インフルエンザをはじめ発熱を主訴とする病気がたくさん出てくるんです。今現在でも、かかりつけ医が必要と判断してPCR検査を行った人のうち、新型コロナウイルス感染症と判明したのは5%に満たないんですよ。つまり95%は新型コロナ以外の病気で発熱している。今後そういう患者さんが増えてくると、新型コロナかそうでないかを鑑別するのは難しい。

磯田:インフルエンザに似た症状もあるみたいですからね。

松井:ただ、インフルエンザはワクチンを接種することである程度発病を防げると言われているので、インフルエンザの可能性を除外する意味で、できれば高齢者の方や基礎疾患をお持ちの方は、インフルエンザの予防接種を受けていただくようにお願いしたいと思っています。

西脇:府としても医師会としっかり連携して、この秋冬に備えていきます。なるべく幅広く検査の網を広げ、熱のある方がPCR検査を受けられる体制を整える。入院については重症化リスクのある方にターゲットを絞って病院を用意する。今、議会で関連予算を審議していただいており、議決いただければ速やかに実行したいと思います。府民の皆さまの生命と健康を守るため、全力を尽くします。

磯田:歴史上、収束しなかったパンデミックはありません。これまで何千回、何万回と、いろんな感染症がいろんな社会を襲ってきましたが、そのたびに人類は何とかしてきた。被害が少なかった事例に学び、スマートな感染対策でこのコロナ禍を乗り越えていきましょう。

西脇:WITHコロナ社会では、未曾有の課題もあり、さらなる流行も懸念されますが、しっかりと備えながら、難局を乗り越え、京都の未来へ進んでいきたいと思います。

(※1)緒方洪庵(1810~1863)=江戸時代後期の医師・蘭学者。天然痘の治療に貢献した「日本の近代医学の祖」
(※2)後藤新平(1857~1929)=医師であり政治家。公衆衛生の観点から下水道などの都市作りを構想した「国家の医師」

 

※9月26日(土曜日)のKBS京都テレビ「新型コロナ~歴史に学び未来へ~」での放送内容を一部編集し、10月3日(土曜日)の京都新聞に掲載しました。

teidan

 

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